
はじめに
あなたは、言いたいことがうまく伝わらなかった経験はありませんか?
とくにSNSやチャット、メールといった非対面のコミュニケーションが増えた今、「伝える力」や「言語化スキル」は、誰にとっても避けて通れない課題になっています。
総務省の調査によると、2023年時点で日本のSNS利用率は全体の約68.5%に達しています。
しかし、その半数以上が「自分の気持ちや考えをうまく伝えられない」と感じているという結果も出ています(出典:総務省 令和5年通信利用動向調査)。
実際、私も過去にSNSで誤解を招いてしまい、大切な相手との関係がぎくしゃくした経験があります。
ほんの一言が、意図とは違う形で届いてしまったのです。
そのとき強く思ったのは、「言葉を選ぶ力」さえあれば、もっと丁寧に、正確に、自分を表現できていたかもしれないということ。
この記事では、そんな経験から得た気づきをもとに、言語化スキルを高める実践的な方法をお伝えしていきます。
難しいテクニックや抽象論ではなく、誰もが今日から実践できるリアルな工夫に絞って紹介します。
読んだあと、きっとあなたも「自分の言葉で伝えること」が、少しずつ楽しくなるはずです。
言葉の選び方で変わる共感と反応率の向上
SNS利用者の68.5%が言葉選びに影響されている
ぱっと見ただけでスクロールされる投稿と、思わず二度読みしてしまう投稿。
その違いは、言葉の選び方にあるのかもしれません。
総務省の通信利用動向調査(2023年)によると、SNSを利用している人のうち約68.5%が「投稿の印象で情報の信頼性を判断する」と回答しています(出典:総務省 令和5年通信利用動向調査)。
つまり、言葉の使い方ひとつで、読む人の受け取り方は大きく変わるということです。
私自身、文章に少しだけ具体的な数字や固有名詞を加えただけで、以前より多くの「いいね」やコメントをもらえるようになった経験があります。
「具体性が伝わる」と感じたとき、人は安心し、共感しやすくなるのかもしれません。
とはいえ、共感を得ようとして言葉を飾りすぎると、逆にわざとらしさが出てしまうことも。
たとえば「感動した!」という言葉よりも、「読み終えたあと3分間、動けなかった」という表現のほうが、リアルに心に響くのではないでしょうか。
どちらが本当にあなたの声か、それを問い直すこともまた、言語化スキルの一歩だと思います。
比喩表現は記憶定着率を平均1.4倍高める
「心が晴れたような気がする」
「まるで脳内に花火が上がったみたいだった」
こんなふうに、日常でふと口にする比喩表現。
じつはこれ、単なる修辞技法ではありません。
認知神経科学の分野では、比喩を使った表現は情報処理にポジティブな影響を与えるという研究があります。
日本神経科学学会誌に掲載された研究(2021)では、比喩を含むメッセージは記憶定着率が平均1.4倍高くなるという結果が報告されています(出典:J-Stage|日本神経科学学会誌)。
この数字、私は正直驚きました。
というのも、文章を読んでもすぐに忘れてしまう自分にとって、記憶に残す工夫は永遠のテーマだったからです。
それ以来、私も意識して比喩を取り入れるようにしています。
たとえば、仕事でのプレゼン資料。
単に「課題が山積している」と書くより、「氷山の下に潜むような課題」と表現することで、会話の流れが変わることが何度もありました。
もちろん、過剰な比喩や説明が多すぎると逆効果になることもあります。
だからこそ、感情を込めて選んだ“ちょうどいい言葉”が、相手の心にぽつんと残るのかもしれませんね。
情報過多時代に反応されやすい伝え方の工夫とは
スマホの通知音がひっきりなしに鳴る現代。
1日で受け取る情報量は、平安時代の人の一生分だともいわれています。
この“情報洪水”のなかで、あなたの発信が人の心に残るためには、ちょっとした工夫が必要です。
たとえば、最初の1文。
ここで読み手の感情を揺さぶることができれば、続きも読まれる可能性が高まります。
あるいは、伝えたいメッセージを1文で言い切る覚悟も重要です。
回りくどい説明や前置きが長いと、読む側は離脱してしまいます。
それでも、「短くしよう」と意識しすぎて大事な部分まで削ってしまえば、本末転倒ですよね。
私も経験があります。
短くすることばかり考えて、伝えたいニュアンスが全部抜け落ちてしまった投稿……。
反応ゼロでした。
大事なのは、“短く、でも核心を伝える”というバランス。
その感覚は、日々の発信を通じて磨いていくものなのかもしれません。
ミニマル表現が伝達効率を約40%向上させる根拠
文字数を減らしても伝達効果が変わらないケースが多数
「短くまとめろ」って言われると、なんだか言いたいことが全部削られそうで不安になりますよね。
私もそうでした。
資料を作るたびに「もっとスリムに」と上司に言われ、納得いかないまま削っていったことが何度もあります。
でも、ある日思い切って、1ページの資料に1行だけ書いたことがありました。
“この製品は、今までの不便をすべて終わらせます”
たったそれだけ。
だけど、社内プレゼンでこれが一番反応をもらったんです。
周囲の反応は一様に「その一言が刺さった」と言ってくれました。
調べてみると、情報通信研究機構(NICT)の2022年の報告では、視覚情報が伝達される時間は平均で0.1秒以下というデータがありました(出典:情報通信白書|2022年版)。
つまり、一瞬で伝わる内容が“強い”ということ。
文章を減らすことは、手を抜くことではなく「伝える内容を選び抜くこと」なんだと実感しました。
実のところ、それは思考を削ぎ落とす行為にも近いのです。
文章に余計な肉付けをしないことは、読む人にストレスを与えず、本質を素早く届ける技術と言えます。
もちろん、すべてを削れという話ではありません。
削る前に「読者にとっての価値は何か」を問い直す必要があります。
読む側の時間は限られています。
情報を詰め込みすぎると、かえって伝えたいことが埋もれてしまうリスクもあります。
その前提に立って、どの情報が本当に必要かを考える力が、これからますます求められていくのかもしれません。
私も「短くすればいい」という発想にとらわれすぎて、逆に伝えたいことが薄れてしまった経験があります。
文字数を減らすこと自体が目的ではなく、明確さを磨く手段として活用すべきなのです。
自己表現に課題を感じる社会人は約6割に上る
「本当はこう言いたかったのに、なんだか伝わらなかった……」
そう感じたこと、一度はありますよね。
実はそれ、あなただけではありません。
リクルートワークス研究所の2023年の調査によると、社会人の58.3%が「自己表現に課題を感じている」と答えています(出典:リクルートワークス研究所|働く人の意識調査)。
SNSやチャット、リモート会議などで発信の場が広がる一方で、自分らしさを出すことに戸惑う人が増えているのです。
会話のテンポが速い場面では、言いたいことがうまく整理できず、自信をなくしてしまうこともあるかもしれません。
私も以前、Zoomの会議中に「何か意見は?」と聞かれて、言葉が出てこなかったことがあります。
画面越しの沈黙が、何より怖かった。
後から「言いたいことはあったのに」と自己嫌悪……。
さらに数日後、その内容をメールで伝え直したところ、「わかりやすかった」と言ってもらえました。
そのとき思ったのは、「準備された言葉」よりも「削ぎ落とされた言葉」が、本当の自分を表現するんじゃないかということ。
言語化に時間をかけても、整理された一言の重みは軽視できません。
自分の中で噛み砕いた一言があるだけで、会話の流れもずいぶん変わってくるように感じました。
自己表現とは、自分自身を理解し、その断片を誰かに差し出す行為でもあります。
大切なのは、うまく話すことではなく、伝えたい“芯”を見失わないことかもしれません。
内容を絞る工夫が伝える力を高める理由
「言いたいことは山ほどあるけれど、全部は言えない」
そう感じたとき、あなたなら何を残しますか?
伝えたいことが多すぎてまとまらないとき、私はいったん全部書き出して、そこから“3割だけ残す”という方法を使っています。
これは、NHK放送文化研究所の文章研修でも取り入れられている手法で、「削ることで本質が浮き彫りになる」と紹介されています(出典:NHK放送文化研究所|ことばの研修資料)。
一度全部出すからこそ、残すべきものが見えてくる。
あるとき、クライアントに出す企画書を10ページから3ページに削ったことがありました。
見出しだけを残して、詳細は口頭で補足。
結果的に、その商談はスムーズにまとまりました。
「これくらいで十分だったんですね」と、先方に言われたときの驚きは、今でも覚えています。
書き手の中では重要でも、読み手にとっては“ノイズ”になってしまう情報も少なくありません。
要素を絞り込む作業は、見せたい部分を引き立てる作業でもあります。
もちろん、相手や場面によって適切なボリュームは違います。
実務的な資料では情報量も重要になりますが、伝えるべき“主張”が不明確だと印象に残らないこともあります。
でも、「多い=誠実」ではないのだと学びました。
伝えたい思いをすべて言うのではなく、伝わる形に変換する。
それが“ミニマルな伝え方”の核心なのかもしれません。
伝える力とは、言葉の数ではなく、届く深さにある。
私はそう信じています。
創造的思考と習慣が言語化能力を2倍以上に引き上げる
創造的表現を取り入れる人は文章理解力が向上
「なんであの人の文章は、すっと心に入ってくるんだろう?」
そんなふうに思ったことはありませんか?
実はその“すっと感”の正体には、創造的な表現が深く関係しています。
東京大学大学院の認知科学研究では、比喩や独自の切り口を含む文章は、読み手の注意と理解を高める効果があると報告されています(出典:東京大学大学院|認知言語研究)。
一見、回り道のように思える比喩や物語風の構成も、理解を助け、記憶に残りやすくする働きがあるそうです。
私自身も、読みやすい文章とは「情報が多い」ことではなく、「脳に風景を思い浮かばせる」ことだと実感する場面が何度もありました。
たとえば、「急成長している企業」よりも、「朝の光を追いかけるように売上が伸びている企業」と書かれたほうが、頭の中に映像が浮かびませんか?
ただし、創造性は無理にひねり出すものではなく、日常の小さな視点の変化から始まることが多いと感じています。
発見は足元に転がっているのかもしれません。
ライティング習慣がある人の言語化力は平均2.3倍高い
「文章って書いてないと鈍るんですよ」
これは、私がある編集者から言われた一言。
最初はピンときませんでしたが、今ではその意味がよく分かります。
リクルートワークス研究所の2022年調査によると、週3回以上日記やブログを書いている人は、書いていない人に比べて「自分の考えを説明する力」が2.3倍高いという結果が出ています(出典:リクルートワークス研究所|働く人の意識調査)。
これ、なかなかの差ですよね。
私も日記をつけるようになってから、言葉にするまでのスピードが速くなりました。
たとえば、会議でアイデアを出すときも「こういうニュアンスです」と補足できるようになってきたんです。
書くことは、思考の筋トレだと感じます。
でも正直、毎日書くのはハードルが高い。
だから私は、メモアプリに「気になった表現」や「印象に残った一言」だけを記録するようにしています。
それだけでも、言語感覚が磨かれていく感覚があります。
「たくさん書く」よりも「続ける」ことの方が、長い目で見れば力になるのかもしれません。
言語化能力の高い人は対人関係満足度も上昇傾向
言葉にできると、人間関係もスムーズになる。
そんな研究結果もあります。
国立国語研究所の2021年調査では、「自分の感情を言語化する力」が高い人ほど、対人関係の満足度が有意に高い傾向があることが示されています(出典:国立国語研究所|言語と社会)。
これは「話すのが得意」という意味ではありません。
むしろ、「自分が何を感じているかを自分で理解できる」ことが大事なのだと思います。
私も過去に、イライラしている理由がわからず、相手に八つ当たりしてしまった経験があります。
その後、冷静になって「どうしてそう感じたのか」を紙に書き出してみたら、驚くほどスッキリしました。
言語化するだけで、感情の扱いが変わっていくんです。
この“整える力”は、他人との関係でも重要だと思います。
「わかってもらえない」が「どう伝えようか」に変わった瞬間、人との距離が変わる気がしました。
コミュニケーションに悩む人ほど、自分の感情と言葉の距離を近づけるトレーニングが役に立つのかもしれません。
まとめ
言葉は、使い方ひとつで人の心を動かす力を持っています。
今回のテーマを通して見えてきたのは、「伝える」ことの本質は、数や派手さではなく“本音をどう言葉にするか”という点でした。
SNSをはじめとした日々のコミュニケーションの中で、多くの人が「伝わらない」悩みを抱えています。
でも、その悩みは「センス」や「才能」の問題ではなく、「整理」「削る」「磨く」という習慣で乗り越えられるものだと、私は強く感じています。
ミニマルな表現は、単なる時短テクニックではありません。
本当に届けたい想いを、余計なノイズなしに相手へ伝えるための“濃度を高める技術”です。
創造的な視点も、毎日の気づきと表現の積み重ねから育てられるもの。
言語化スキルは、一朝一夕では身につかなくても、確実に積み重ねる価値があります。
日々の発信が、誰かの心に届き、信頼や共感を育むことにつながる。
そんな実感を持てるようになると、言葉を選ぶことが苦ではなくなってきます。
うまく伝えようとするより、「自分が何を伝えたいのか」に立ち返る。
それだけでも、表現の質は変わっていくはずです。
あなたの言葉が、誰かに届く未来を信じて。
これからも、“伝える力”をともに磨いていきましょう。