
はじめに
教室に入れず机に座れない——そんな子どもが今、全国に34万6,482人います。
静かな家庭の中でため息をつく親の姿、ふとした拍子に涙ぐむ子どもの表情。
一昔前の私も、そんな親のひとりでした。
「どうして他の子みたいに通えないの?」と問い詰めてしまい、後悔の連続でした。
でもある日、子どもが算数の図形パズルを無心で解いている姿を見たとき、ふと気づいたんです。
この子は「学校」ではなく、「学び」が苦手だったわけじゃない、と。
学ぶ手段を変えるだけで、子どもの目は再び輝きます。
今こそ私たちは、学校に行く・行かないという枠を超えて、新しい教育のかたちを真剣に考えるべき時代に立っています。
本記事では、柔軟な教育手法と算数的思考を軸に、子どもの可能性を最大限に引き出す方法を紹介します。
悩み、立ち止まっている保護者や教育関係者の方にとって、一筋の光となることを願っています。
創造力と自己肯定感を高めるオルタナティブ×プロジェクト学習
小中不登校34万6482人、過去最多に対応する個別最適化
「うちの子、また行けなかった」——こんな言葉を、今どれだけの保護者が毎朝口にしているでしょう。
文部科学省が2024年に発表した調査によると、小中学生の不登校者は全国で34万6482人と過去最多を記録しました。
特に顕著なのは小学生の増加傾向で、10年前に比べ約2.5倍となっています。
この数字の裏には、体調不良や家庭事情、いじめなど多くの要因が潜んでいますが、「学び方の多様性不足」も無視できません。
私が公立中学校で勤務していた当時も、同じ教室、同じ授業が合わない子が確かにいました。
ただ、その場では「適応力不足」と切り捨てられ、支援も十分とは言えなかったのです。
とはいえ最近では、オルタナティブ教育が注目を集めています。
これは一斉授業から離れ、プロジェクト型学習や探究学習を重視する教育スタイルで、個々のペースや興味関心に合わせた柔軟なアプローチが特徴です。
机に縛られず、教科書をなぞらず、子ども自身が学びの主人公になれる場。
「先生、今日はこれを調べてきました!」という声が飛び交う教室は、生き生きと輝いていました。
もちろんすべての子どもに合うわけではありません。
なかには、自由すぎて逆に戸惑う子どももいます。
それでも、一律的な評価から解放されることで「自分らしさ」を再発見する機会になることが多いのです。
あなたの子どもにとって「正解の教室」とは、どこにあると思いますか?
PISA数学536点でOECDトップ水準、思考力育成の土台に
2022年のPISA調査(OECD国際学力調査)において、日本の生徒の数学的リテラシーは536点という高得点を記録しました。
これはOECD平均(472点)を大きく上回り、世界でもトップクラスの水準です。
しかし、このスコアが示すのは「一部の生徒の突出」ではありません。
全体の底上げが達成されているという事実があるのです。
その裏には「考える力」を鍛える教育の成果があります。
私は以前、学習塾で中学3年生を担当していたことがあります。
テストの点はそこそこでも、日々の会話で「先生、この問題って○○に応用できますよね」と発言する生徒がいたんです。
点数に現れない「考える力」を感じた瞬間でした。
一方で、こうした思考力育成を支える仕組みが家庭や学校に浸透していない地域もあります。
教育の地域格差が、将来の選択肢の格差につながらないよう、広く情報を共有していく必要があります。
点数よりも「考える姿勢」を育てる教育。
それが、これからの時代に欠かせない「学びの土台」となるでしょう。
アクティブラーニング×探究学習が自己肯定感を底上げ
「自分はできる」と思える瞬間——それは学びの喜びと深く結びついています。
そして、それを感じる方法はひとつではありません。
教室の中で手を挙げられない子どもが、家では夢中で昆虫の図鑑を眺めていたりする。
そんな姿を見て、「ああ、この子の学びはここにある」と気づいたことが何度もあります。
アクティブラーニングや探究学習は、まさにその可能性を開く鍵です。
学校では「探究の時間」という科目名で導入が進んでいますが、家庭でも実践可能です。
たとえば、料理中に「なぜ玉ねぎは炒めると甘くなるのか?」と子どもに問いかける。
図書館に行って一緒に調べ、絵で描いてまとめてみる。
この一連の流れが、まぎれもない学びになるのです。
ポイントは、「正解」を求めないこと。
途中でわからなくても、予想が外れても、気づきや驚きを大切にすること。
自己肯定感は「うまくやれた」よりも「やってみた」経験の積み重ねから育まれます。
わが子が「またやりたい!」と目を輝かせたら、その時点で十分に価値があるのです。
算数×補助線×思考力 学力偏差をPISA540→560超へ高める!
補助線活用で図形思考が発展、PISA高得点に奏功
白いノートの上に、鉛筆がキュッと走る。
真っ直ぐな線がひとつ加わるだけで、難解だった図形問題がすっと解ける。
補助線というのは、まるで視界を開く「鍵」のような存在です。
私が個別指導塾で担当していた小学5年生の生徒は、図形問題が苦手でした。
「先生、どこを見ればいいかわからない」とうつむくその子に、私はある日こう伝えました。
「ここに1本、線を引いてみようか」
すると、それまで沈黙していた顔に、ぱっと明かりが灯ったのです。
この一例からもわかるように、補助線はただの“作図”以上の価値を持っています。
それは「見えなかった関係性」を浮かび上がらせ、理解へと導いてくれます。
文部科学省が推進する思考力重視の教育においても、図形の構造把握力は重要視されています。
OECDが行うPISAの数学リテラシーでも、「図形的構造の把握と変形」は高評価のカギとなっているのです。
補助線は、論理性だけでなく、想像力も育てます。
ただし、引けばいいというものではありません。
どこにどう引くか——その戦略を練ること自体が、思考のトレーニングになります。
正解に至る「道筋」を、自ら創造できるようになる。
その過程で、子どもたちは自分の頭で考える喜びを見つけるのです。
見える力×詰める力の家庭対話「なぜ?」で思考習慣化
「なんでそうなるの?」と子どもに聞かれた瞬間、返答に困ったことはありませんか?
私も何度もありました。
でも、その「なぜ?」こそが、子どもの思考力を伸ばす一歩なんです。
算数には、直感的に答えを出す「見える力」と、筋道を立てて説明する「詰める力」があります。
両者のバランスが整うことで、問題に取り組む際の“腰の据わり方”が変わってきます。
ある家庭では、毎日夕食後に親子で「算数クイズ」を出し合っているそうです。
正解かどうかよりも、「どうやってその答えを出したか」を語ることに重きを置いているとか。
実際、こうした家庭では、子どもの思考が柔軟で論理的になっていく傾向が見られます。
学校でも、なぜその式になるのかを説明させる授業が増えています。
解答そのものより「考え方」が重視されるようになったのです。
「どうしてこの順番で計算したの?」
「この図のどこがポイントだと思う?」
こうした問いかけを、親子で自然に交わせるようになると、学習はただの“作業”ではなく、“思考の旅”に変わります。
日常の中で「考える力」を根付かせるには、家庭が最高のフィールドになります。
質問の質が変われば、子どもの見える世界も変わるのです。
ICT活用とPBLにより学習ギャップを縮小
図形が動き、音声が解説を添える。
そんなICT教材を初めて見たとき、「これなら苦手な子も理解できる」と感じたのを覚えています。
従来の黒板とチョークだけの世界では、情報の伝達が一方向でした。
けれど今、教育はもっと双方向で、立体的であるべきだと強く思います。
ICT(情報通信技術)の進化によって、図形の変形過程や補助線の引き方を視覚的に学べるツールが増えています。
私が訪問したある地方の小学校では、タブレットを使った算数授業が日常化していました。
特に、図形問題の解説動画は「まるでパズルみたい!」と子どもたちに好評でした。
それだけではありません。
PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)を組み合わせることで、学んだ算数の知識を実社会の課題に応用する活動も行われていました。
「校庭の花壇の面積をどう計算する?」
「買い物の予算でどの野菜を優先する?」
こうした問いは、まさに“生きた算数”です。
算数が苦手な子にとって、公式の丸暗記や抽象的な問題ほど壁になるものはありません。
ですが、ICTとPBLを導入することで、イメージで理解し、手を動かし、失敗しながら試せるようになります。
失敗を恐れない環境が、思考の幅を広げてくれるのです。
その変化は、やがて「学びの格差」を埋める大きな力になるはずです。
ホームスクーリング/フリースクールで多様性=才能育成の源泉
不登校増加に応じた公私混合の教育選択肢
「もう無理して通わせなくていいですか?」
そんな言葉を、ある保護者が面談の最後につぶやいたことがあります。
その声には、疲れ切った心と、子どもへの深い愛情がにじんでいました。
文部科学省の調査によれば、不登校児童は年々増加傾向にあり、2023年度はついに34万人を超えました。
背景には、学校生活への不適応、精神的ストレス、発達特性への理解不足などが複雑に絡んでいます。
公立学校の支援体制だけでは、カバーしきれない家庭も少なくありません。
その中で注目されているのが、フリースクールやホームスクーリングといった新たな教育の選択肢です。
公的支援が行き届きにくい面もありますが、最近では文科省も制度の拡充に乗り出し、地域との連携や通学相当の出席認定が広がりつつあります。
大切なのは「選べること」。
家庭の事情や子どもの個性に応じて、複数の道が用意されているだけで、保護者の安心感はずいぶん変わってくるものです。
学校という一つの型にすべてを押し込める時代は、終わりを迎えつつあります。
ギフテッド支援・ICT環境とPBL融合で算数思考を促進
光る才能を持ちながら、それを発揮する場を失っている子どもたちがいます。
彼らは「ギフテッド」と呼ばれ、突出した能力を持つ反面、一般的な学校教育に適応しづらいことも少なくありません。
特に算数や数学に強い関心を持つ子どもは、既存のカリキュラムでは飽き足らず、学ぶ意欲を失ってしまうケースも。
私はかつて、10歳で大学レベルの数式を解く子に出会ったことがあります。
けれどその子は、学校の授業では手持ち無沙汰になり、「面白くない」とノートすら開こうとしませんでした。
そこで導入されたのが、ICTを活用した個別最適化学習と、PBL(プロジェクト・ベースド・ラーニング)です。
例えば、天気予報のアルゴリズムを解析するプロジェクトでは、統計や確率の知識を応用する機会が多くありました。
その子は意欲的に取り組み、1週間後には自作の簡易予測モデルを発表するほどでした。
才能は、活かす場を与えられてこそ輝きます。
逆に言えば、場がなければ、どんなに素晴らしい才能も育ちません。
ギフテッド教育は特別な環境だけの話ではなく、地域や家庭でも工夫次第で実現可能です。
多様なツールと柔軟な発想が、子どもの可能性を最大化するのです。
支援制度と連携した専門性ある教育モデル
制度が整っていなければ、どんなに良い教育方針も机上の空論に終わってしまいます。
現場で試行錯誤してきた私の経験からも、行政支援と現場の連携は極めて重要だと実感しています。
たとえば、フリースクールで学ぶ子どもが、正式な「出席扱い」と認定されるかどうかは、その後の進学や就職にも直結します。
幸い、ここ数年で文部科学省の対応も前向きに変化してきました。
「教育機会確保法」の制定以降、家庭以外の学びの場を支援対象とする動きが進んでいます。
一部自治体では、フリースクールへの補助金支給や、家庭訪問による学習サポート制度も導入されています。
こうした制度をうまく活用しながら、専門家との協力体制を築くことが重要です。
カウンセラーや教育心理士、特別支援教育士などが連携することで、単なる“居場所”にとどまらない、「育ちの場」としての質が高まります。
学校に行けないことは、決して教育の終わりではありません。
それは、もう一つのスタートラインでもあるのです。
まとめ
子どもが目を輝かせて「わかった!」と言ったその瞬間、すべての苦労が報われたような気持ちになります。
その喜びを知ると、私たちはもっとよい教育のあり方を求めたくなるものです。
不登校が増え続ける今、従来の学校という枠組みだけでは支えきれない現実があります。
しかしそれは同時に、「学び方を再定義できる時代が来た」というチャンスでもあります。
オルタナティブ教育やプロジェクト型学習、柔軟なカリキュラム、家庭での対話——すべては子どもたちの“学びたい”を尊重する手段です。
そして、算数という一見とっつきにくい教科も、補助線や実生活とのつながり、ICT活用によって“自分事”に変わります。
一人ひとりの子どもに「自分の学び」があるという当たり前のことを、ようやく社会全体で受け入れる機運が高まってきました。
その機運を後押しするのは、現場の声と、家庭の選択です。
あなたの子どもにとって何が最適か、いま一度問い直してみてください。
画一的な教育制度に抗い、多様な学びを育むことができるのは、私たち大人の覚悟と工夫次第です。
子どもたちは、本来持っている力を信じてくれる大人がそばにいるだけで、大きく変わります。
誰かの「できない」には、必ず理由がある。
そして、「できるようになる」可能性も、必ずどこかに眠っています。
その可能性の扉を開けるカギは、あなたの手の中にあります。
未来の学びを、共に切り拓いていきましょう。