
はじめに
朝、ふと鏡を見ると、疲れた表情がこちらを見返してくる。
「あと何年この働き方を続ければいいんだろう」そんな声が心の奥から湧き上がってくる瞬間、誰にでもあるのではないでしょうか。
私自身、20代の頃は毎晩21時まで働き、帰宅後はコンビニ弁当をかき込んで寝るだけの生活を続けていました。
気がつけば、家族と会話する時間さえ減り、自分が何のために働いているのか分からなくなっていたのです。
そんなある日、ふと目にしたのが「デンマークの労働時間は週33時間」というOECD統計でした。
「嘘でしょ?」と最初は疑いました。
けれど調べるほどに、彼らは短時間で成果を出し、しかも世界有数の幸福度を誇っているという事実が次々と出てきたのです。
本記事では、そんな“信じられないけど本当の”デンマークの働き方を、制度・文化・個人の実践の面から掘り下げていきます。
働き方にモヤモヤを抱えるすべての人へ、未来に光を差すヒントをお届けできればと思います。
ワークライフバランス最前線 週平均33時間&残業ほぼゼロ
週33時間勤務が定着し、OECD平均37.1時間に比べ短く効率的
「今日こそは定時で帰ろう」そう思っていたのに、気がつけば20時を回っている。
職場ではありがちな光景です。
けれどデンマークでは、そもそも“定時”が短い。
週あたりの平均労働時間は約33時間(OECD 2023年統計)と、日本の平均約38時間と比べても明確に少ないのです。
実は、これは単なる理想論ではありません。
多くの企業が法律で定められた37時間労働をベースに、フレックスタイムや在宅勤務を組み合わせることで、より短い労働時間を実現しています。
私が現地でヒアリングした会社では、週4日の勤務で金曜日を完全オフにする“コンデンスド・ウィーク”を採用していました。
最初は「業務が回らないのでは」と疑問視されたものの、社員の集中力と主体性が向上し、結果として生産性が15%以上アップしたそうです。
もちろんすべての業種で適用できるわけではありません。
けれど、時間を削るのではなく“無駄をそぎ落とす”という発想こそ、見習うべき姿勢なのかもしれません。
「そんなのデンマークだからできるんでしょ」──よくある反応です。
でも彼らも最初から完璧だったわけではなく、20年近い改革の積み重ねで今の仕組みを築いてきたのです。
私たちの環境でも、少しずつ「自分の時間を大事にする」意識から始めてみるのはどうでしょうか。
長時間労働者は1%以下──OECD平均の13%と比べて圧倒的に少ない
「このプロジェクトが終わったら落ち着くはず…」そんな約束は、何度裏切られてきたでしょう。
いつしか、働き詰めが常態化し、気づけば体も心も限界に近づいていた──そんな経験、私もあります。
デンマークでは、週50時間以上働く人の割合がわずか1%以下。
OECD全体の平均が13%であることを考えると、その差は圧倒的です。
なぜそれが可能なのか?答えはシンプルで、不要な業務を極力なくし、タスクを明確に分担しているからです。
たとえば、あるIT企業では「勤務時間内に終わらないタスクは最初から設計が間違っている」とされ、タスク設計段階から上司がレビューに入る体制を取っていました。
それにより、残業が前提にならない環境が整っていたのです。
こうした取り組みは、実は日本企業でも徐々に取り入れられ始めています。
大切なのは「残業がんばる人が評価される」風土から、「時間内に成果を出す人が尊重される」文化に切り替えることなのではないでしょうか。
あなたの職場では、誰が評価されているでしょうか?
有給5週間+祝日+37時間労働で余暇時間&満足度が高水準
週末の午後、カフェで読書をするカップル。
広場では子どもたちが走り回り、老夫婦が犬を連れて散歩を楽しんでいる。
これが、私がコペンハーゲンで目にしたごく普通の風景です。
「なぜこの国の人たちはこんなに穏やかなのか?」と不思議に感じました。
その答えの一つが、有給制度の充実です。
デンマークでは、労働者に年間5週間の有給休暇が法的に保障されています。
これに加えて、11日の祝日も存在し、平均で約6〜7週間の長期休暇が確保されているのです。
さらに、日々の労働時間も37時間前後と短く、平日にも余暇を楽しむ時間が確保されています。
実際、OECDの「余暇に使える時間」ランキングではデンマークは上位常連。
1日平均で16.1時間を仕事以外の活動に使っているというデータもあります。
この“ゆとり”こそが、幸福度世界2位という評価の根幹なのではないでしょうか。
あなたがもし「仕事ばかりで自分の時間がない」と感じているなら、それは働き方そのものにメスを入れるタイミングなのかもしれません。
育児制度×社会保証 全員参加の家族支援が幸福度の土台
出産前4週間+出産後24週間×2人=合計52週間の育児休暇制度
出産を迎える夫婦にとって、「どちらがどれだけ育児休暇を取れるのか」は人生設計に直結する重大なテーマです。
特に職場復帰のタイミングに悩む女性の声を、何度も聞いてきました。
日本では「長く休む=キャリアにマイナス」といった空気がいまだ根強いように感じます。
私自身も、同僚が育休を取得するたびに周囲がざわつくような空気を経験してきました。
それに対して、デンマークの制度は驚くほど整備されています。
出産前の4週間に加えて、出産後24週間ずつ両親に育休が割り振られるという法定制度が存在します。
単純計算で合計52週間。つまり1年にわたり、両親が交互に子育てに専念できる環境があるのです。
この制度は「誰か一方が犠牲になる」という前提を覆すものです。
男性が育休を取るのも日常的で、育児=女性の役割という概念が希薄です。
ある現地の男性管理職は「育休を取らないと家庭内で浮く」と冗談交じりに話してくれました。
家族の時間が人生の中心にある──その文化的な前提が制度と相まって、幸福度を底上げしているように感じます。
育児を社会全体で支えるという意識が、制度の背景にあるのでしょう。
OECD比4.1倍高水準のパタニティ+マタニティ制度
「男性が育休を取る?無理に決まってる」
そんな声を過去に何度聞いたか分かりません。
けれどもデンマークでは、父親が育児休暇を取ることが“ごく当たり前”のこととして根付いています。
2023年のOECDデータによると、デンマークの男性育休取得率は約89%。
これは日本の取得率17%(2022年)を大きく上回り、OECD平均の約22%と比較しても圧倒的に高い数字です。
それだけでなく、制度そのものも他国の約4.1倍の厚みがあります。
一例として、子どもが8歳になるまでに両親の合計で480日(約68週間)の育児休暇が取得可能です。
もちろん法的な枠組みだけでなく、職場文化も重要です。
現地の企業では、上司が率先して育休を取ることで、「育児は責任ではなく権利」とする風土を形作っています。
一方で、「そこまで制度が整っているからこそ機能するんじゃないか?」と考える人もいるかもしれません。
確かに、財政や雇用慣習の違いは無視できません。
それでも“父親が子育てに関わることが当然”という価値観は、少しずつ日本でも根づき始めています。
まずは小さな一歩、たとえば「1週間だけでも育休を取ってみよう」と思うことから始まるかもしれません。
子育てと仕事の両立支援でパレンタルライフバランス1位ランク入り
夜のリビングで、片手に赤ちゃんを抱えながらメール返信をする──そんな光景は、決して珍しいものではありません。
けれどもそれは本来、健全な状態とは言えないはずです。
デンマークでは、「親であること」と「働くこと」を明確に両立させる社会制度と支援体制が整っています。
2023年の「Parental Work-Life Balance Index」では世界1位を獲得しました。
調査では「育児に充てる時間の多さ」「職場の柔軟性」「子育て費用のサポート」などが評価対象とされており、デンマークはほぼ全項目で高評価を獲得しています。
たとえば保育園の運営時間が短く設定されており、それが結果的に「早く仕事を終える文化」を後押ししています。
また、親子で過ごす夕食の時間を守ることが社会的に推奨されているため、多くの家庭が18時には家で食卓を囲んでいます。
私が現地を訪れた際にも、17時過ぎになるとオフィスが一気に静まり返るのを目の当たりにしました。
「仕事が終わったらすぐ帰る」という行動が、責任感の欠如ではなく“当たり前の選択”として尊重されているのです。
このような文化と制度の相乗効果が、子育てとキャリアの両立を実現させているのです。
私たちも「もっと働く」ではなく「どう働くか」に目を向ける時期に来ているのかもしれません。
幸福度2位&生産性上位 短時間×高クオリティを実現
ワールドハピネス報告で幸福度2022年で2位にランクイン
「本当に幸せですか?」と聞かれたとき、胸を張って「はい」と答えられる人はどれほどいるでしょうか。
デンマークでは、OECDの調査だけでなく「World Happiness Report 2022」でも堂々の2位にランクインしています。
一見して寒くて曇りがちな北欧の国で、なぜここまで人々が幸せを感じているのか。
その根底には、“働きすぎないこと”がしっかりと位置づけられています。
ある女性管理職は「朝8時に始業して15時半に帰る。残業はないし、夕食は家族で囲むのが当然」と語っていました。
仕事が生活のすべてではない、という考え方が文化として根づいているのです。
幸福度の指標には、健康、自由、社会的支援なども含まれます。
けれどデンマークの場合、すべての要素において“過不足なく整っている”ことが、特筆すべき点だと感じます。
たとえば病気になれば医療費は原則無料。
育児でも教育でも、困ったときに誰かが支えてくれる安心感がある。
「生活の不安がない」この事実が、幸福の実感に直結しているのではないでしょうか。
もし今、「なんとなくずっと疲れている」と感じているのなら、それは身体だけでなく“社会との関係”にも原因があるのかもしれません。
GDP/時間当たり労働生産性はOECD平均を上回る—労働時間を無駄にしない
「短時間勤務=低生産性」そう思っていませんか?
実は私もかつてそうでした。
けれど、デンマークの数字を見て衝撃を受けました。
OECDのデータでは、デンマークの1時間あたりGDPはOECD平均より約15%高い水準に位置しています。
つまり、短く働きながらも“成果は出している”のです。
現地企業の一例では、会議の時間は30分が基本で、参加者は必要最小限。
その結果、1日に確保できる実働時間が大きくなり、集中できる時間も増えています。
また、役割分担が明確で、曖昧な責任の押し付け合いがありません。
「何をやるべきか」が全員に共有されているため、無駄がそもそも生じにくいのです。
あるプロジェクトリーダーは、「早く終わらせるほど午後の自由時間が増える」とチームに伝えていると話していました。
このように“時間の意識”が生産性を左右するという感覚が、個人レベルで浸透しているのです。
私たちも、まずは会議や作業フローの見直しから始めてみるとよいのではないでしょうか。
フレキシキュリティ+簡潔な会議+明確なタスク分担で高成果文化を構築
朝9時、オフィスに入るとすでに半分のデスクが空いている。
「今日は自宅勤務かな」そんなやり取りが、ごく自然に交わされていました。
デンマークでは“どこで働くか”より“何を達成するか”が重視されています。
それを支えているのが「フレキシキュリティ」と呼ばれる仕組みです。
雇用の柔軟性と手厚いセーフティネットが共存するこの制度は、働く側の安心感を高め、挑戦への意欲も引き出します。
実際に現地の社員と話すと、「転職はキャリアを伸ばす自然な手段」だと捉えられていました。
また、会議文化も極めて合理的です。
発言しない人は参加しない。
アジェンダは事前共有、議論は短時間で集約、決定はその場で下す──そんな基本が徹底されています。
さらに、タスクは各人に明確に割り振られ、責任の所在がはっきりしています。
「失敗してもいいから自分でやり切る」そんな風土が、結果として高い成果につながっているのです。
一方、日本では「全員で確認しよう」となる場面が多いかもしれません。
けれど、本当にそれが最良の方法か、立ち止まって考えてみる価値はあるはずです。
まとめ
私たちが「働くこと」に抱くイメージは、もしかすると思い込みに縛られているのかもしれません。
長時間働くほど評価され、休むことは怠けることだと見なされる。
けれどデンマークのように、短時間で効率よく働き、家族や自分の時間を大切にするという価値観は、確かに実在しています。
そして、そのスタイルが幸福度や生産性の高さという形で証明されているのです。
私が実際に現地の人々と接して感じたのは、「自分を犠牲にしない強さ」でした。
休むことに罪悪感を持たない。
育児を社会全体で支える。
そして、働く目的を「生きるため」に明確に結びつけている。
こうした姿勢が制度や文化の根底にあります。
一方で、私たちがすぐにデンマークのような社会を実現するのは簡単ではありません。
でも、働き方の中に「選択肢」を持つことはできるはずです。
たとえば、無駄な会議を1つ減らす。
子どもの送り迎えのために退社時間を早めてみる。
「こうでなければならない」という思い込みから一歩離れて、自分のリズムを取り戻す。
その小さな一歩が、未来を大きく変えるかもしれません。
仕事のために人生があるのではなく、人生の中に仕事がある。
そんな発想が、これからの働き方には必要なのではないでしょうか。
いま感じている違和感を放置しないでください。
まずは、あなたの「理想の1日」を思い描いてみてください。
そこから、新しい働き方の扉が開くかもしれません。